小青竜湯(19番)と苓甘姜味辛夏仁湯(119番)
どちらも肺を暖めて痰飲を除く方剤だけどこの違いはおもしろい
まずは薬味からみてみると
苓甘姜味辛夏仁湯は名前の通り
茯苓、甘草、乾姜、五味子、細辛、半夏、杏仁
小青竜湯は
苓甘姜味辛夏仁湯から一番前(茯苓)と一番後ろ(杏仁)を去って麻黄、桂枝、芍薬を加えたもの
麻黄、桂枝、甘草、乾姜、五味子、細辛、半夏、芍薬
Q:コレって何が違うの??
小青竜湯に含まれる麻黄+桂枝の組合せは風寒の邪(冷たい空気)を感受した際にその邪を追い出すことが出来る。
つまり小青竜湯証は必ず“風寒邪”が原因であり、軽度でも表証(悪寒・発熱等)がなければならないということ。
「花粉症に小青竜湯」なんて決まり文句のように薬を売っているところもあるけれど、
風寒邪の感受と表証の有無をちゃんとチェックしているのだろうか?
花粉症のピークが暖かくなってきた頃なのに小青竜湯を飲んでいるのも…
それから長期間小青竜湯の服用を続けると胃気が弱ってしまうので注意。
麻黄は食欲を落とすことがあります。(エフェドリンの副作用に悪心・嘔吐とあります)
*金匱要略・痰飲咳嗽病の苓甘姜味辛夏仁湯の条文にもそう書いています
「其の證応に麻黄を内れるべくも、其の人遂に痺するを以ての故にこれを内れず。…」
苓甘姜味辛夏仁湯は冷えた痰飲が肺に溜まったことにより起こる気管支喘息や花粉症に良い。
発作のスイッチに外感風寒がないことを確認。
肺に溜まっている冷えた痰飲(寒飲)を取り除いてくれる。
梅雨や秋冬に気温低下が原因の喘息なら発作が続く時期に小青竜湯、緩解期に苓甘姜味辛夏仁湯なんて使い方は良いのではないでしょうか。
どちらの方剤も痰や鼻水の色は透明でサラサラ。鼻水は垂れるように出てくる感じです。
ツーッと垂れてくる鼻水に良く効きます。
*ちなみに2剤とも五味子が入っているため酸っぱいです(>_<)
苓甘姜味辛夏仁湯を緩解期に用いますがこの方剤の組成は補薬が少ないので
完治を目指すには他の処方に切り替えて行く必要があると考えています。
出典
小青竜湯
≪傷寒論/太陽病≫
①傷寒、表解せず、心下に水気有り、乾嘔し熱を発して咳し、
或は渇し、或は利し、或は噎し、或は小便利せず、少腹満し、或は喘する者、小青竜湯之を主る。
…~若し喘のものは麻黄を去り杏仁を加う。
②傷寒、心下に水気有り、咳して微かに喘し、熱を発して渇せず。
湯を服し已りて渇する者、此れ寒去り解せんと欲するなり。小青竜湯之を主る。
≪金匱要略/痰飲咳嗽病≫
③溢飲を病む者は当に其の汗を発すべし、大青竜湯之を主る;小青竜湯も亦た之を主る。
④咳逆し倚息し卧するを得ざるは、小青竜湯之を主る。
≪金匱要略/婦人雑病≫
⑤婦人涎沫を吐し、医反って之を下し、心下即ち痞するは、当にまずその涎沫を吐するを治すべし。小青竜湯之を主る。
涎沫止み乃ち痞は治す、瀉心湯之を主る。
苓甘姜味辛夏仁湯
≪金匱要略/痰飲咳嗽≫
水去り嘔止み、其の人形腫るるは、杏仁を加え、之を主る。
其の証、応に麻黄を入れるべくも、其の人遂に痺するを以て、故に之を内れず。若し逆に之を内れるは、必ず厥す。然る所以の者は、其の人血虚するを以て、麻黄は其の陽を発するが故なり。
*痰飲咳嗽病には小青竜湯→苓桂味甘湯→苓甘五味姜辛湯→苓甘姜味辛夏湯→苓甘姜味辛夏仁湯→苓甘姜味辛夏仁黄湯の流れがある。
今回は小青竜湯と苓甘姜味辛夏仁湯の比較のみとする。