中医学理論によれば
腎陰虚(ほてり)…六味丸
腎陽虚(冷え) …八味丸(六味丸加桂皮・附子)
腎陽虚水泛(冷え+むくみ)…牛車腎気丸(八味丸加牛膝・車前子)
という通説がある
しかし実際の臨床で患者さんを診ていると当てはまらない場合があると感じている
冷え症は漢方相談の多い病症のひとつで
これに上記の通説をあてはめると良くない現象が起きるのだ
そこで八味丸について考えてみたい
【注】八味丸の出典は金匱要略(200年ごろ)であって六味丸の小児薬証直訣(1119年)より遥かに前であるため、ここでは六味丸+桂皮・附子という考え方はいたしません
八味丸(地黄・山茱萸・山薬・沢瀉・茯苓・牡丹皮・桂枝・附子)
『中医臨床のための方剤学/神戸中医学研究会』
〔効能〕温補腎陽
〔主治〕腎陽虚
腰や膝がだるく無力・腰痛・下腹部がひきつる・下半身の冷えや浮腫・尿量減少あるいは多尿・排尿困難
排尿後の余瀝・舌質は淡胖・舌苔は白~白滑・脈は沈で無力・尺脉が細で無力など
主役はもちろん地黄です
そのためこのお薬を出す側としては必ず”胃腸の弱さ”が気になります
なぜなら地黄がこってりしていて胃腸に重たいから
出典より薬物の配合量を確認すると
乾地黄八両 山薬・山茱萸各四両 沢瀉・牡丹皮・茯苓各三両 桂枝・附子(炮)各一両
煉蜜にて和し丸となし梧子大とす。酒もて十五丸を下す。。。
「下痢をしたらご連絡ください」「多少お腹がゆるくなるかもしれません」
と言うのは飲めれば良いなという曖昧な判断だと思う
治療家としては納得できない
「熟地黄なら胃に障りにくい」という理論は、
中国の方が中華料理(こってり)に慣れた胃腸をもっているからではないでしょうか
張景岳が腎を補うには熟地黄をもってのみと言って以来
神聖化された地黄のチカラは薬物そのものがまるで生きているかのようにさえ感じてしまいます
関連ブログ:張景岳と熟地黄
お薬を飲んで胃腸を壊したら本末転倒ですよね
西医が痛み止めを処方して胃が悪くならないように一緒に胃薬を出しておきます
とどう違うのでしょうか
お薬より大事なのは食事ですよね
私はそう思います
八味丸についていくつか本を開いてみると
【景岳全書】
「善補陰者、必於陽中求陰、則陰得陽昇、而源泉不竭。」
【老医口訣】浅田宗伯
「後世、脾腎瀉と名くるものあり、即ち五更瀉なり。八味丸を用ゆと雖も亦効なし。此の症は真武湯を用いて試むるに効あり。」
【類聚方広義】尾台榕堂
「淋家にして、小便昼夜に数十行、(小)便了って微かに痛み、居常便心断たず(常にトイレに行きたい気持ち)、或は厠に上らんと欲するときは、則ちすでに遣る。」
【内科秘録】本間棗軒
「少腹及び腰より股にのみ水気多い者には八味地黄丸等を撰用す。」
大塚敬節によれば
「食欲は正常であるかもしくは旺盛である。また大便は下痢することなく、時に便秘の傾向を示すことがある。」
「脈は一体に強い。微弱や軟弱無力のものに用うることがないと考えて良い。沈のもの浮のものもあるが、強い脈である。」
「皮膚の色浅黒く、筋肉のしまりの良いものが多い。従って皮膚にしまりのない、いわゆる水太りのもの内臓下垂症のもの、及びいわゆる労瘵質(疲れやすい)のものに用いることはほとんどないと考えてよい。もし誤ってかかる体質のものに与うれば、下痢・腹痛・悪心・食欲不振等の副作用を訴えることが多い。」
共通しているのは
・排尿障害に用いること
・下痢、食欲不振などの胃腸障害を起こす可能性があること
以上から考察できるのは
八味丸が適応となる冷えの方は主訴が排尿障害ということ
元来胃腸とカラダが丈夫な方が最近年をとったせいか衰えを感じ始めた…
金匱要略の「少腹不仁」は具体的には「腹に力が入らなくなった」という訴えとしてあらわれる
生薬は他薬との組み合わせで様々な働きがありますが、八味丸の附子は下焦(膀胱)の働きを改善させる
それによって尿意頻数・排尿困難のどちらにも効果がある考えています
+Cでは胃腸が弱いと判断した方には地黄の含まれるお薬をお出しすることはありません
胃腸を建て直すことで冷えを治していきます
もう一度おさらい
お薬より食事です 胃腸はお大事に