出典:太平恵民和剤局方・治一切気
「治脾胃不和、不思飲食、心腹胸脇脹満刺痛、口苦無味、胸満短気、嘔噦悪心、噫気呑酸、面色萎黄、肌体痩弱、怠惰嗜臥、体重節痛、常多自利、或発霍乱、及五噎八痞、膈気反胃、并宜服。」
脾胃和せず、飲食を思わず、心腹胸脇脹満刺痛し、口苦く味無く、胸満短気し、嘔噦悪心し、噫気呑酸し、面色は萎黄、肌体は痩弱し、怠惰し臥するを嗜み、体重く節痛み、常に自利多きを治す。或は霍乱を発し、及び五噎八痞、膈気反胃に並びに宜しく服す。
*五噎:憂噎・思噎・気噎・労噎・食噎
*八痞:胸腹部の痞満
諸病源候論・八痞候”営衛不和、陰陽隔絶、臓腑痞塞而不宣通”所致。
平胃散:朮・厚朴・陳皮・甘草(大棗・生姜)
主に構成する朮・厚朴・陳皮の3薬はすべて温性の薬物
条文には明確に寒湿の邪の存在は書かれていないが、処方構成から考えてこの方剤を用いる病態は寒湿困脾。
その結果として脾胃の昇降失調→脾胃不和・不思飲食をあらわす。
蒼朮については以前のブログを参照
和剤局方の平胃散の病態をまとめると
寒湿の邪が脾胃に停滞することで、寒湿困脾・胃の気滞をあらわす。
病症
食欲不振・腹満・ゲップや胃酸逆流・悪心嘔吐・軟便下痢・倦怠感
これは胃の降濁↓・脾の昇清↑の働きが低下したため。
方後に「常服調気暖胃、化宿食、消痰飲、辟風・寒・冷・湿・四時非節之気」
常に服すれば、気を調え胃を暖め、宿食を化し、痰飲を消し、風・冷・湿・四時非節の気を辟(さ)く
とあるため寒湿は外因・内因のどちらの可能性もある。
ここで医方集解を開いてみると
【消導之剤】のはじめに登場する
「治脾有停溼、痰飲痞膈、宿食不消、満悶嘔瀉、及山嵐瘴霧、不服水土」
脾に停湿、痰飲あり痞膈し、宿食消えず、満悶し嘔瀉するを治す。及び山嵐瘴霧にて水土を服さず。
*山嵐瘴霧…湿熱が蒸鬱して生ずる病邪の一種。
*水土…水は腎、土は脾。脾腎の働きをコントロールできない。
消導之剤に記載した理由を考えると
平胃散が気剤であることが理解できる
主薬は利湿の蒼朮であるけれど厚朴・陳皮の2薬は降気・理気に働く
特に厚朴の薬性はベクトルが↓向きである
e.g.半夏厚朴湯・小承気湯・厚朴生姜甘草半夏人参湯
そのため腹満(ガスが溜まってお腹が張る)を訴える方によく用る
また、柴朴湯が喘息に用いられるのもこれが関係する
以上より、平胃散は燥湿健脾剤でありつつ気剤であることがわかる
実際の臨床においては平胃散単剤で用いることは少ない。そのため
・加味平胃散(消導)
・香砂平胃散(理気)
・平陳湯(痰飲)
・胃苓湯(水瀉)
・芩連平胃散(湿熱)
などがつくられたのだろう。