蘇子降気湯
半夏・蘇子・当帰・前胡・厚朴・桂皮・陳皮・生姜・大棗・甘草
中医学の方剤書には
効能:降気平喘・温化寒痰
とあり喘息の薬だろうと思わせぶりです
しかし、私は喘息に使ったことがないので考察することにしました
神戸中医研の方剤学では
「腎陽不足が本で寒痰壅肺の喘逆は標であるが、標が急であるから降気平喘・化痰を主にして温腎納気を佐とする。」
どうもこの”温腎=桂皮”が余計なモノに見えてしまうのダ
寒痰壅肺の喘逆にのみ焦点をあて取り去った後に温腎の方薬を選択したほうが効くようにおもう
そこで視点を変え処方構成をみると
桂枝去芍薬湯+降気薬(蘇子・前胡・厚朴)+化痰薬(半夏・陳皮・生姜)+潤燥(当帰)
となる
つまり桂枝湯加減としてみた
桂枝去芍薬湯は桂枝のパワーを最大限に発揮させるため芍薬の重しを去ったもの
出典の和剤局方に「気不昇降、上盛下虚」とありこれは陽虚ではなく巡りの悪い状態である
実際、蘇子降気湯を用いる方は陽虚はなくてもよい
むしろ陽虚があれば他の方剤を選択する
*下記に「足冷+喘息=蘇子降気湯」はNGとの先哲の言葉があります
桂枝去芍薬湯で陽気を高め降気薬・化痰薬で喘咳の症状を去る
Q:当帰はなぜ入っているのか?
蘇子降気湯を考察すると当帰の意義に悩む・・・
神戸中医研の「慢性の経過では病変が血分に及ぶことを考慮して和血する」はちょっと乱暴ではないか?
突然衛気営血辨証で論じているのだろうか?
喘鳴・喘咳・呼吸促迫症状を呈する方は発作時に便秘になると訴えるものが少なくない
和剤局方・医方集解でも大便について論じている
当帰は降気薬と併用することで潤腸通便の作用を期待していると考える
蘇子降気湯を臨床で用いた例は
感冒後の気管支炎による喘咳・痰を伴う咳
*気管支喘息ではない
気管支喘息であれば桂枝加厚朴杏仁湯や小青竜湯などが良いでしょう
これらは水飲がメインとなります
蘇子降気湯
出典:太平恵民和剤局方/治一切気
治男女虚陽上攻、気不昇降、上盛下虚、膈壅痰多、咽喉不利、咳嗽、虚煩引飲、頭目昏眩、腰疼脚弱、肢体倦怠、腹肚㽲刺、冷熱気瀉、大便風秘、渋滞不通、肢体浮腫、有妨飲食。
不拘時候、常服清神順気、和五臓、行滞気、進飲食、去湿気。
【後世医家】
万病回春/巻之二・喘急
治陽虚上攻、気不昇降、上盛下虚、痰涎壅盛、喘促気満咳嗽。
張氏医通/巻十六・祖方
≪千金≫本名紫蘇子湯。治脚弱上気、凡痰涎壅盛、肺満喘嗽、服之気降即安。
医方集解/理気之剤
治虚陽上攻、気不昇降、上盛下虚、痰涎壅盛、喘嗽嘔血、或大便不利。
此手太陰薬也、蘇子前胡厚朴橘紅半夏皆能降逆上之気、兼能除痰、気行則痰行也。
数薬亦能発表、既以疏内壅、兼以散外寒也。当帰潤以和血、甘草甘以緩中、下虚上盛。
故又用肉桂引火歸元也。
療治経験筆記:津田玄仙
蘇子降気湯、足冷、喘息の2つは此方を用ゆる目的なり。もし諸病の中に足冷と喘息との2つがあらば此方を用ゆべし。効あらずと云うことなし。若し足冷の証なくば十分の効はあるべからず。
勿誤薬室方函口訣:浅田宗伯
此の方は脚弱上気を治する方なれども、今の脚気には効すくなし。上気は今の喘息のことにて虚気亢りて喘鳴する者に効あり。
故に後世にて足冷喘急を目的として用ゆ。又耳鳴・鼻衄・歯揺・口中腐爛・欬血・水腫・喘満等の症、足冷あれば必ず効あり。
易簡方に下元虚冷并びに尊年気虚の人に用るにも又雑病に用るにもよき口訣と知るべし。
漢方診療の実際:大塚敬節
津田玄仙の”足冷と喘”を目標に蘇子降気湯を用いたが効がなく苓甘姜味辛夏仁湯で著効を得た。
引用:高橋道史氏の紫蘇子杏桑湯
「”上気は今の喘息のことにて虚気亢ぶりて喘鳴するものに効あり。故に後世にて足冷喘息を目的として用う。”と、この症から見ると此の薬方は現代医学の気管支喘息と一致するが、これは喘鳴咳嗽の症であって神秘湯の”久咳、奔喘、坐臥するを得ず”の症ではない。つまり真の気管支喘息ではなく、慢性の気管支カタルの症なのである。…」