あらためて… 苓甘姜味辛夏仁湯と哮喘・喘息

以前ブログで小青竜湯と苓甘姜味辛夏仁湯について書きました

 

  小青竜湯と苓甘姜味辛夏仁湯

 

梅雨は小児ぜんそく・気管支喘息の相談の多い季節

そんなわけでまたあらためて考察します

哮 喘

医学正伝・哮喘/虞摶(ぐたん)

「哮は声响を以て名づく、喘は気息を以て言う。」   响…響

「夫れ喘促し喉間に水鶏の声の如きは之れ哮と謂う;

気促連続し以て息すること能わざるは之れ喘と謂う。」

哮…主に喉間に痰鳴声がある  喘…主に呼吸促迫をさす

両者は併発しやすく臨床上明確に区別しがたい。

今回は哮証に喘証を兼ねるもの“水飲を伴う呼吸困難”を取り上げた。

 

西洋医学の気管支喘息とは?

a)病態

 気道の慢性炎症、気道の過敏性亢進、可逆性のある気道狭窄

b)誘発因子

アレルゲン暴露・運動・外気や冷房の寒冷刺激・気道ウィルス感染・カビの吸引

喫煙や副流煙・花火の煙

c)治療方法

 1)吸入ステロイドによる発作の予防 (e.g. フルタイド)

  気管支の狭窄があり頻度が高い場合には気管支拡張薬の併用 (e.g. アドエア)

  去痰薬の内服 (e.g. ムコダイン)

 2)発作期

  高用量気管支拡張薬の吸入  (e.g. メプチンエアー)

  喀出困難な痰がある場合には温湯を飲んで薄める

救急搬送時には酸素吸入、ステロイド点滴

 

*気道の炎症・過敏が主。痰の認識はあるが生成を防ぐという論理はない

 

まず傷寒・金匱を見てみると

傷寒論】

桂枝加厚朴杏子湯・葛根黄連黄湯・麻黄湯・小青竜湯・麻杏甘石湯に「喘」

その他に「喘家」「喘満」

【金匱要略】

小青竜湯「逆倚息し臥するを得ず」、射干麻黄湯「咳して上気し喉中に水鷄の聲ある」

すでに病態の把握と方剤が挙げられている。

 

後世では

【医宗必読・痰飲/李中梓】

「痰の病たる、十に常六七あり。〈内経〉痰飲を叙る四条は皆湿土に因り害と為す。故に先哲は云う:脾は生痰の源なり。又曰:痰を治するに脾胃を理せざるは其の治にあらざるなり。

「五経並びて行り、何れによりて痰之有るか?惟脾土虚して湿なれば、清は昇り難く、濁は降り難し。中に留まり膈に滞り鬱して痰と成る。故に痰を治するに先ず脾を補い脾の健運常復すれば、痰は自ら化さん。

 

 

小児ぜんそく

≪小児ぜんそくに罹患した子供の特徴≫

・カラダが小さい、カゼを引きやすい、食が細いといった“虚弱体質”を思わせる

・成人の気管支喘息と比べ病理が単純である

 

「脾は生痰の源・肺は貯痰の器(医宗必読)」の原則のもと、発作期に痰⇔緩解期に健脾

発作期:小青竜湯加減・苓甘姜味辛夏仁湯

緩解期:六君子湯・補中益気湯

これらの方剤を用いて発作を起こさないようにする。西洋医学同様、発作の予防が重要。

小児ぜんそくは成長とともに治る。同時にカラダが小さい等の要素も消失してゆく。

山本巌

「標治と本治に分けて考えますと、冷えて喘咳のある子は小青竜湯をやって標を治して、良くなった時点で今度また悪くしないために中国流にいう“本治”と称して六君子湯加減のような処方をやるわけです。」

 

Q:小児ぜんそくの発作に小青竜湯を用いて良いか?

 上述の通り素因に虚弱体質(≒脾肺気虚)がある。この者に麻黄を投与するべきか…

傷寒論・金匱要略での麻黄の使い方

小青竜湯【傷寒論40条の加減方】

「若し喘なるは、麻黄を去り杏仁を加う」

苓甘姜味辛夏仁湯【金匱要略/痰飲咳嗽】

「其の証應に麻黄を内れるべきも、其の人遂に痺するを以ての故に之を内れず。若し逆に之を内れるは、必ず厥す。然る所以は、其の人血虚し麻黄は其の陽を発するを以ての故なり。

麻黄を去るのは陽気の発越を防ぐことと論じている。

小児は陽>陰といえども成長期は陽も十分ではない。さらに虚弱であれば尚更である。

臨床においても麻黄を用いずに発作を抑えることは可能である。

 

Q:苓甘姜味辛夏仁湯は補剤か瀉剤か?

苓甘姜味辛夏仁湯【金匱要略/痰飲咳嗽】

苓甘姜味辛夏仁湯:茯苓・甘草・乾姜・五味子・細辛・半夏・杏仁

小青竜湯        :麻黄・桂枝・甘草・乾姜・五味子・細辛・半夏・芍薬

この2剤は補薬が少ない。肺の寒飲を去るための瀉剤と考えるべき。

Q:小青竜湯・苓甘姜味辛夏仁湯が哮喘に効くのは?

甘草乾姜湯【金匱要略/肺痿肺癰咳嗽上気】

「肺痿にて涎沫を吐して咳せざる者は、其の人渇せず必ず遺尿して小便数なり。しかる所以は、上虚して下を制する能わざればなり。此れ肺中冷となす。必ず眩し、多く涎唾す。甘草乾姜湯を以て之を温む。」

甘草乾姜湯は中焦の陽虚には人参湯として組まれた方剤である。

一方、上焦の陽虚に小青竜湯・苓甘姜味辛夏仁湯として組まれた。

 

哮喘の緩解期には補剤への変方が必要となる。→六君子湯?補中益気湯??

六君子湯(半夏・茯苓・人参・朮・陳皮・大棗・甘草・生姜)

出典:医学正伝

「痰に気虚を挟みアクを発するを治す」 「気虚に痰を挟むを治す」

 *基礎中医学・神戸中医学研究会では脾肺気虚に六君子湯

【勿誤薬室方函口訣:浅田宗伯】

蘇子湯「半夏、乾姜と伍するは心下の飲を目的とするなり」

  *蘇子湯(外台秘要):半夏・蘇子・乾姜・橘皮・茯苓・桂枝・人参・甘草

からも補中益気湯ではなく六君子湯が良いのではなかろうか。

 

 

 

成人の発作期

 病位…肺  病理…肺気不宣

 具体的な病因の確認

  ・電車で強力な冷房を受けた…外感風寒

  ・朝晩冷えたとき…外感風寒

  ・雨が降る前日、台風が近づくと…風湿邪、風寒湿邪

  ・雨の日、梅雨になると…湿邪、寒湿邪

  ・冬の冷たい空気を吸いこんだら…外感風寒

  ・運動をすると…肺気不宣

  ・喫煙、副流煙、花火…肺気不宣

  ・暴飲暴食…肺気不宣

発作期は気道狭窄による呼吸促迫が顕著なため急いで回復させる必要がある。

漢方薬は「アレ!?おかしいな…」と感じた時点で服薬する必要がある。

β2アゴニストでコントロールできないほど重度の場合は救急車を呼ぶ。

喩嘉言:「人身に難治の病百病あり、喘病は其の最たる也。」

表証(悪寒・発熱)から哮喘発作に移行した場合のファーストチョイスは麻黄湯

麻黄が宣発粛降を高め呼吸促迫を鎮める。

桂枝×麻黄の発表作用。

甘草×麻黄および杏仁の利水。

*哮喘発作に用いる場合、半夏・生姜を加えると降気・化痰・利水がより高まる。

 

小青竜湯【傷寒論】【金匱要略/痰飲咳嗽・婦人雑病】

 40条:「若し喘なるは麻黄を去り杏人を加う」

 桂枝×麻黄は発表を目的としているため表証がなければ麻黄の必要はない。

 *病歴・程度をみて肺の機能低下が著しい場合には麻黄の宣発粛降upを目標に加える

桂枝加厚朴杏仁湯【傷寒論】

 18条「喘家は桂枝湯を作り、厚朴杏子を加えて佳なり」

 43条「太陽病、之を下して微喘あるは表未だ解せざるが故なり。桂枝加厚朴杏仁湯之を主る」

 

≪厚朴・杏仁の働き≫

 厚朴(唐厚朴)

  平胃散・承気湯・蘇子降気湯などを構成。

気を下に降ろす働きをもつ。ベクトルが↓向き 厚朴は温性・燥性で上逆を治める。

 杏仁

麻黄湯(三拗湯)・麻杏甘石湯

桂枝加厚朴杏仁湯・苓甘姜味辛夏仁湯・小青竜湯去麻黄加杏仁

喘に用いて水飲を取り去る   杏仁は利水に働く

 

≪寒痰と熱痰≫

痰の性状は哮喘の治療で必ず確認する

寒痰…透明、清稀、量多、出しやすい

熱痰…黄~緑色、粘稠、量少、出しにくい、嫌な臭い

痰飲の治療は「温薬を以て之を和すべし」を大前提とするが熱痰(特に急性期)においてはそうもいかない。

例えば小青竜湯・苓甘姜味辛夏仁湯に肺熱を冷ます薬味を加える

   黄芩 石膏 葦茎

 もしくは肺熱を冷ます方剤を用いる

   麻杏甘石湯・五虎湯・五虎二陳湯・清肺湯・定喘湯

    →標治であり宿痰・伏飲を除くことはできない。

発作が治まった後、温薬を用いて本治へ移行

 

≪発作時の便秘≫

哮喘発作の際、便秘を訴える者があるが外証があるときには下剤をかけてはいけない。

傷寒論44条「太陽病、外証未解者、不可下也、下之為逆。」

 

蘇子降気湯/医方集解

「治虚陽上攻、気不昇降、上盛下虚、痰涎壅盛、喘嗽嘔血、或大便不利。」

細字:肺は気を主る。肺虚し火盛んなれば、故気高く痰は炎え津は枯れる。升有り降無し、故に大便利せず

気の上逆が起こっているため降りて行かない。その結果便通がつかない。

降気薬を用いることで上逆を治めれば気が自然と降りて便通がつくようになる。

 

止咳に働く薬物例

温熱性:蘇子・款冬花

寒涼性:前胡・桑白皮・枇杷葉・貝母

哮喘に用いる方剤例

  蘇子降気湯、華蓋散、参蘇飲、麻杏甘石湯、五虎湯、清肺湯、定喘湯

神秘湯、柴朴湯、分心気飲、百合固金湯、滋陰降火湯

 

 

 

緩解期

【金匱要略/痰飲咳嗽病】

「痰飲を病むは、當に温薬を以て之を和すべし。」

そして最初の方剤

苓桂朮甘湯【金匱要略/痰飲咳嗽】

「心下に痰飲有り、胸脇支満・目眩する」

「夫れ短気し微飲あるは、當に小便より之を去るべし、苓桂朮甘湯之を主る」

心下の痰飲が原因であるならば、本治に苓桂朮甘湯を用いても良いはずである。

が現実的には効果が弱い。

 

苓甘五味姜辛湯【金匱要略/痰飲咳嗽】

「衝気即ち低く、反って更に咳し胸満するは、桂苓五味甘草湯から桂枝を去り乾姜・細辛を加えて用い以て其の咳満を治す」

真武湯【傷寒論/少陰病】

316条 「若し咳なるは、五味子半升、細辛・乾姜各一両を加う」

                                 

(浅田の蘇子湯より)心下の飲を除くには半夏・乾姜を、「咳」に対する薬味として五味子・細辛・乾姜を用いる。

苓桂朮甘湯・真武湯などの水飲を除く処方にこれらを加味して用いても良い。

 

【結語】

苓桂朮甘湯加半夏・五味子・細辛・乾姜は苓甘姜味辛夏仁湯に近づくが

朮は補薬であり哮喘の原因となる宿飲を除くためには重要なのだろう