桂枝茯苓丸:桂枝・茯苓・牡丹皮・桃仁・芍薬(・煉蜜)
まず出典の金匱要略をみてみます
【出典:金匱要略・婦人妊娠病】
「婦人宿有癥病、経断未及三月、而得漏下不止、胎動在臍上者、為癥痼害。妊娠六月動者、前三月経水利時、胎也。下血者、後断三月衃也。所以血不止者、其癥不去故也、当下其癥、桂枝茯苓丸主之。」
【訳】
婦人に宿(ふるき)より癥病あり、経断ち未だ三月に及ばずして、漏下すること止まざるを得て、胎動(のごときもの)臍上に在るは、此れ癥痼害すと為す。妊娠し六月にして動くは、前の三月の経水利する時は、胎なり。下血するは、後断ち三月の衃なり。血止まざる所以のは、その癥去らざるが故なり。当にその癥を下すべし、桂枝茯苓丸之を主る。
『婦人妊娠病』という章に登場し以下2つを分類しています
①妊娠による月経の閉止なのか?
②癥瘕(ちょうかという腹内に出来る移動しない塊)による閉止及び出血なのか?
そして②に対して桂枝茯苓丸を投与すれば癥瘕が下り月経閉止と不正出血が止みますよと言っています。これを後世の医家たちが様々な月経不順と女性の体調不良に応用してきました。男性にも使われてきました。
*張仲景は妊婦には使っていないわけですがNGということではありません
瘀血(おけつ)とは??
敢えて言いますが”都合の良い言葉”です。
漢方をやってきて思うことですがこれほど広く使われながら適当な言葉はありません。
近年では「血栓=瘀血」と言わんばかりの表現にまで拡大しています。非常に困ったものです。。。
漢方では目に見えるモノ・目に見えないモノを体感的に捉えて診断しなけばなりません。
例えばバスケットボールをしていて着地したときに足首を捻った!
紫色に変色しみるみるうちに腫れてゆく!!
コレは急性に生じた瘀血ととらえて良いです。そして通導散や治打撲一方を飲ませ瀉下させてあげるとスーッと痛みも腫れも色も抜けてゆく。
目に見えてわかりやすい瘀血です。
しかし、腹の中で起きていることは見えないから厄介。
月経痛が強いから瘀血?
腫れているから瘀血?
固定性の拒按痛(触れられたくない痛み)だから瘀血?
夜に悪化するから瘀血?
冷えのぼせがあるから瘀血?
子宮筋腫があるから瘀血?
患部や舌・唇が紫色をしているから瘀血?
どれも正解であり不正解なのです(・へ・)
大塚敬節は「瘀血の腹証がある患者を開腹してみたが、特別のものは発見できなかった」と記しています。これは瘀血に限らず漢方全体に言えることで古人の経験に教えられてその伝統を守ってやっていくしかないのだと思います。わからないことは多い。。
ついでに大塚は「月経の初日に腹痛を訴えるものには桂枝茯苓丸の証が多く、もし疼痛激甚に耐えがたいものには、月経の始まる前日あたりから桃核承気湯を用い、月経が終わってから桂枝茯苓丸にもどすようにする。」と言います。
私がもうひとつ大切な指標としているのが症状の「月経前悪化→月経開始後消失」です。
龍野一雄の桂枝茯苓丸
緊張型で体格体質は桃核承気湯に良く似ている。然し緊張の程度、顔面皮膚などに現われる鬱血の程度は桃核承気湯が動揺性興奮性の症状を現わすことが多いのに対して桂枝茯苓丸は静止性の症状を現わすことが多い。例えば婦人科疾患なら下腹部に於ける硬結は桃核承気湯では軟く、散在性であることが多いのに桂枝茯苓丸では硬く一個であることが多い。桃核承気湯では局所症状と同時に、若しくは局所症状よりも強くのぼせる症状が必ず起こるのに桂枝茯苓丸では局所症状だけ、若しくは局所症状に比しては軽くのぼせる症状が起こる。
ところでこの方剤は何故丸薬にしたのか?出典の通りにつくれば生薬を粉末にして煉蜜(蜂蜜)で兔屎大にすると書かれています。
おそらくは癥瘕に似たものを服用することでそれを去るという考えだったのだと思う。
これについて龍野は「しこりをとるのが目的であったのだろう」と推測している。
実際には「煎じ薬=桂枝茯苓丸料」で十分効果を得ています。
煎じているとき牡丹皮の匂いが独特で、合っている方はコレを好みます。これも桂枝茯苓丸が適するひとつの指標となります。