乾姜は”生姜を蒸して乾燥させたもの”とされている
しかし傷寒論に最初に登場する甘草乾姜湯29の処方構成には”炮”の字が書かれているだけです。
炮は「あぶる」で「蒸す」ではありません。
その後に登場する処方(四逆湯30、小青竜湯40、乾姜附子湯61、茯苓四逆湯69、梔子乾姜湯80、柴胡桂枝乾姜湯147、半夏瀉心湯149、生姜瀉心湯157、甘草瀉心湯158、桂枝人参湯163、黄連湯173、桃花湯306、白通湯314、白通加猪胆汁湯315、通脈四逆湯317、烏梅丸338、麻黄升麻湯357、乾姜黄連黄芩人参湯359、理中丸386)には炮制の記載は一切ありません。
*処方名の後の数字は条文番号
傷寒論の時代と現代とでは薬草を採取した後の保存方法が異なります。
生地黄が現代において存在しないのもその理由からです。
生姜は「ショウガを乾燥させたものではなく、生のショウガである」そして
乾姜は「ショウガを乾燥させたもの」であることは想像がつきます。
さて、今回とりあげた乾姜ですがこの生薬は人体にとってとても興味深い働きをしてくれます。
一般に理解されている「ショウガは身体を温める」というのは事実です。
私たちもその目的で使います。
そのプロトタイプとなる処方が甘草乾姜湯29です。
陰陽でいう陽の部分を回復させる働きがあります。
例えば胃腸が冷えて下痢をする方がいたとして、その方の胃腸の陽気を回復し温まって下痢が治るという仕組み。
同様に肺が冷えてゼロゼロと咳が出たり呼吸が苦しかった方がいたとして、その方の肺の陽気を回復し温まって呼吸苦や咳が治るという仕組み。*これらは臓腑を中心とした冷えを考えた場合
冷蔵庫・冷暖房の発達によってこのような方は現代沢山おられます。
日本人はキンキンに冷えたビールやかき氷が大好きですからね(^.^)
ところが、この乾姜。処方によって同じように働かない場合もあります。
・苓姜朮甘湯
・大建中湯
これらのお薬は同様に”冷え”に使いますが、適応となる方は必ずしも下痢をしているわけではありません。
特に苓姜朮甘湯には甘草乾姜湯がそっくり含まれているのにです。
苓姜朮甘湯は下肢が冷えて痛むものに使われます。
また大建中湯が合う方の中には下痢をしていても良いですが絶対条件ではありませんし便秘の方が多くいます。
不思議だなぁと思いませんか?
胃腸(特に腸管)が冷えていると下痢をする可能性が高いというのは事実だと思います。
しかしそれは100%ではないということです。
胃腸が冷えるとその周囲の筋の動きは過敏↔低下どちらかにシフトします。
(寒い所にいるとブルブル震える↔縮こまって動きが鈍ると同じように)
過敏になればムクムクと動いてしまい痛みが現われます。これが腸閉塞の発作時の状態と言えます。
大建中湯が適応となる病態です。
過敏な状態で飲食物の吸収ができず早く外へ出そう出そうとすると下痢(未消化便)が現われます。これが冷えて下痢をする状態と言えます。
人参湯(甘草乾姜湯)が適応となる病態です。
原因は同じようにみえますが、大建中湯は実寒証(邪実有り)で人参湯は虚寒証(邪実無し)と考えられます。
*邪実とは冷気そのものと思ってください
大建中湯を服用している方の多くは開腹術後の腸閉塞の再発予防です。
開腹術(or腹腔鏡術)の際に外気に直に晒されて一時的に過敏な状況をつくってしまったとも考えられます。
山椒という非常に辛い刺激物で痛みをとります。そして乾姜を用いて腸管の冷えを去り機能を正常に戻します。
腸閉塞と大建中湯のブログ