浅田流 柴胡桂枝乾姜湯

漢方には流派があり同名処方といえど捉え方が違うことがあります。そして流派によって加減方があり独自の構成をしているものがあります。

例えば抑肝散は大塚敬節先生は抑肝散・抑肝散加芍薬・抑肝散加芍薬厚朴・抑肝散加芍薬厚朴黄連といったようにたった1処方でも色々な構成があるようです。

今回は幕末~明治にかけて侍医を務めておられた浅田宗伯(1815-1894)先生の柴胡桂枝乾姜湯について考察してみたいとおもいます。


勿誤薬室方函口訣

「此方もまた結胸の類証にして水飲心下に微結して小便不利を顕する者多し、此方に黄耆鱉甲を加て與るときは効あり。高階家にては鱉甲芍薬を加緩痃湯と名づけて脇下或いは臍傍に痃癖ありて骨蒸状をなす者に用ゆ。此方は微結が目的にて津液胸脇に結聚して五内に滋さず乾咳出でる者に宜し。固より小青龍湯などの心下水飲に因りて痰咳頻に出る者の比に非ず。又小柴胡湯加五味子乾姜湯の胸脇苦満して両脇へ引痛するが如きにも非ず。唯表症より来りて身体疼痛なく熱ありと雖も脉浮ならず或いは頭汗盗汗出で乾咳する者に用ゆ。又瘧にて寒多熱少き者に用いて効あり。又水腫の症心下和せず築々として動悸する者は苓を加えて宜し。又此方の症にして左脇下よりさしこみ緩みがたき者或いは癖飲の症に呉茱萸茯苓を加えて用ゆ。又婦人積聚水飲を兼ね時々衝逆にて肩背強急する者に験あり。」

 

浅田流漢方の中でこの加減方は有効であると感じています。最後の2つ「加茯苓」「加呉茱萸茯苓」です。

 

柴胡桂枝乾姜湯:柴胡・桂枝・括呂根・黄芩・牡蛎・甘草・乾姜

 

構成生薬として桂枝甘草湯を内包しているため上衝に効くことは言うまでもありません。

柴胡剤ですから柴胡を主薬として黄芩を配し欝熱を冷ます力があります。適応となる方は往々にして”不安感”を訴えます。ところがこの不安感に対してはこのままでは弱いと言わざる負えません。。

そこで浅田流に倣い茯苓を加えると「桂枝・甘草・茯苓」の3味が揃います。苓桂朮甘湯・苓桂甘棗湯・苓桂味甘湯これらすべて不安感に用いられるのは構成生薬にこの3味があるからです。

朮は痰飲をさばき主にめまいに効き、棗・五味子は安神に働いています。そして茯苓は部位として”心臓の辺り”に働く力があると考えています。*中薬学では茯苓に安神作用があるといいます

 

そしてさらに浅田先生は癖飲(飲邪が胸脇に停留することで起こる。腫脹・痛み・呼吸苦)に対しては加茯苓呉茱萸としています。

呉茱萸という薬物は難解です。胃寒(胃が冷えているもの)による嘔に用いるのは間違いありませんがここでの呉茱萸はそうではないはずです。傷寒論では附子がとても重要な働きを持っており、少陰病で多用される温陽の重要薬物です。六経は流動性があり太陽⇔少陰、陽明⇔太陰、少陽⇔厥陰と転属します。柴胡桂枝乾姜湯は少陽病の処方であり陰病に落ちたら厥陰となります。傷寒論では病位は”表裏内外”で表現され柴胡桂枝乾姜湯は半裏に属します。裏により近いところです。この「加茯苓呉茱萸」は少陽→厥陰に移行するかしないかの瀬戸際に用いるものだと解釈しました。*完全に陰病に落ちた場合には附子を用いる

このとき症状として現れるのが痛みです。不安・動悸に加えて痛みを訴える場合に呉茱萸を加えるとそれがのぞかれます。この痛みは”背中”に訴える傾向にあり「胸の奥の方」と表現される場合もあります。

 

たった1味・2味の差ですがそれがあるかないかで薬の効き方が全く変わることは漢方の奥深さだと感じています。

おまけとして、、、延年半夏湯に呉茱萸が入っており痛みに用いられるのも同類だとおもいます