パニック障害と予期不安

先日のクローズアップ現代プラスでは「パニック障害」について取り上げていました。

10年間で9倍に患者数が増えている現代病。そして男≪女と優位な性差があります。

私のところにもパニック障害の相談が増えていますし、既往がある方は多いですからその数字も納得です。


画像はNHKクローズアップ現代プラスより

漢方の古典には当然「パニック」という言葉は見当たりません。

放送ではストレス・睡眠不足・アルコールやコーヒーやタバコが原因の一部と報じていました。

古典にないから漢方では治療ができないのかというとそうでもなく

例えば「甘麦大棗湯」は小児・成人を問わずパニック発作に有効であった事例が報告されています。

*保険適応は夜泣き・ひきつけ

 

金匱要略

婦人雑病

婦人臓躁、喜悲傷欲哭、象如神霊所作、数欠伸、甘麦大棗湯主之。

臓躁(ヒステリー)によりしばしば悲傷して泣きわめき、まるで何かに憑りつかれたかのように見え、たびたびあくびをするものは甘麦大棗湯により治療できる。

この条文は婦人雑病編に書かれており、やはり女性に多いとされています。

内容は

甘味料としも使われるカンゾウ

うどんやパンの原料となる小麦

薬膳鍋などにも入っている木の実のナツメ

全て食品から成っています。

このことから推測するに胃腸の働きが低下している、もしくは食品から得るべきエネルギーの源が正常に吸収されていないものが適応となる。発作の際には煎じるわけにもいきませんから粉薬を携帯していただき要時服用としています。


予期不安

さて、パニック発作を経験された方は「また発作を起こすのではないか?」という予期不安に苛まれます。

そして閉鎖的な環境(エレベータ・急行電車・コンサートホール)に居ることができなくなっています。

この予期不安に対して私は桂枝甘草湯を用いることで治療成績を得ています。

 

傷寒論

64条

発汗過多、其人叉手自冒心、心下悸、欲得按者、桂枝甘草湯主之。

汗を発すること過多となり(津液と気を消耗してしまった)、其の人手をまじえて自ずから心をおおい、心下悸し、押さえていたいと思うものは桂枝甘草湯之により治療できる。

 

この条文から気の消耗によって発症する不安・動悸が桂枝甘草湯により治療できることがわかります。

しかし桂枝甘草湯はベース薬でありこれだけで用いることはありません。他の薬草と組み合わさることでパニック発作の予防に応用していきます。

例えば・・・

 

65条

発汗後、其人臍下悸者、欲作奔豚、茯苓桂枝甘草大棗湯主之。

汗を発した後、其の人臍の下に動悸を感じる場合、奔豚を発症しそうである。苓桂甘棗湯により治療ができる。

 

この条文は「奔豚」という病になる前段階で動悸を感じるものに適応となることを述べていて予期不安の方でこの処方が合う方もおられました。桂枝甘草湯をベースに先ほどの甘麦大棗湯のカンゾウ・ナツメも含まれています。

桂枝×甘草は気の上衝による動悸に

茯苓は水の異常による動悸・不安に

大棗は不安に

それぞれ対応しています。

 

傷寒論ではさらに奔豚についてこのように書かれています

117条

焼鍼令其汗、鍼処被寒、核起而赤者、必発奔豚。気從少腹上衝心者、灸其核上各一壮、与桂枝加桂湯。

桂枝を増量することで奔豚という激しい気の上昇を治療できることを教えています。

 

傷寒論ではその他に

102条の小建中湯(心中悸而煩)…陰陽両虚の動悸

67条の苓桂朮甘湯(気上衝胸)…水と気の異常による動悸・めまい

106条の桃核承気湯(其人如狂)…瘀血と気の異常による動悸

さらに金匱要略から

痰飲咳嗽病の苓桂味甘湯(気從少腹上衝咽喉)…水と気の異常による動悸・めまい・面熱

これらを考慮してパニック障害の予期不安に用いています。

 

ところで発作には甘麦大棗湯しかないのかというと

112条…救逆湯(驚狂)

118条…桂枝甘草竜骨牡蛎湯(煩躁)

は発作時に短期間服用することでコントロールできます。これらは桂枝加竜骨牡蠣湯の加減方。


参考

【傷寒論】

64条

発汗過多、其人叉手自冒心、心下悸、欲得按者、桂枝甘草湯主之。

65条

発汗後、其人臍下悸者、欲作奔豚、茯苓桂枝甘草大棗湯主之。 

67条

傷寒若吐若下後、心下逆満、気上衝胸起則頭眩、脈沈緊、発汗則動経、身為振振揺者、茯苓桂枝白朮甘草湯主之。

102条

傷寒二三日、心中悸而煩者、小建中湯主之。

106条

太陽病不解、熱結膀胱、其人如狂、血自下、下者癒。其外不解者、尚未可攻、当先解外。外解已、但少腹急結者、乃可攻之、宜桃核承気湯方。

112条

傷寒脈浮、医以火迫劫之、亡陽、必驚狂、起臥不安者、桂枝去芍薬加蜀漆竜骨牡蛎救逆湯主之。

117条

焼鍼令其汗、鍼処被寒、核起而赤者、必発奔豚気從少腹上衝心者、灸其核上各一壮、与桂枝加桂湯。

118条

火逆、下之、因焼鍼煩躁者、桂枝甘草竜骨牡蛎湯主之。

147条

傷寒五六日、已発汗而复下之、胸脇満微結、小便不利、渇而不嘔、但頭汗出、往来寒熱心煩者、此為未解也、柴胡桂枝乾姜湯主之。

177条

傷寒脈結代心動悸、炙甘草湯主之。

 

【金匱要略】

痰飲咳嗽病

青龍湯下已、多唾口燥、寸脈沈、尺脈微、手足厥逆、気從小腹上衝胸咽、手足痹、其面翕熱如醉状、因復下流陰股、小便難、時復冒者、與茯苓桂枝五味甘草湯、治其気衝。

血痺虚労病

夫失精家少腹弦急、陰頭寒、目眩髪落、脈極虚芤遅、為清穀亡血、失精。脈得諸芤動微緊、男子失精、女子夢交、桂枝加竜骨牡蛎湯主之。

婦人雑病

婦人臓躁、喜悲傷欲哭、象如神霊所作、数欠伸、甘麦大棗湯主之。